「うちの子の歯並び、私に似たのかも…」「歯並びってやっぱり遺伝するの?」そんな疑問や不安を抱える保護者の方は多いのではないでしょうか。
たしかに、歯並びは遺伝の影響を受けることがあります。顎の大きさや歯の形、顔の骨格などは親から子へと引き継がれるためです。しかし実際には“遺伝だけが原因”とは限りません。
むしろ、指しゃぶりや口呼吸、頬づえ、柔らかい食事などの生活習慣や癖のほうが、歯並びを悪くする大きな要因となることも多いのです。
今回は、歯並びが遺伝する確率や影響を受けやすい歯並びのタイプ、遺伝以外の後天的な原因、そしてお子さんの歯並びを整えるための方法までを分かりやすく解説します。
お子さんの歯並びが遺伝かも…と気になっている方は、ぜひ参考にしてください。
歯並びが遺伝する確率は?|父親・母親どっちに似る?
「歯並びは子どもに遺伝する?」と気になる方は多いかもしれません。歯並びには遺伝が関係する部分はあるものの、生活習慣や癖などの要因も大きいとされています。ここでは、歯並びと遺伝の関係性について解説します。
歯並びそのものが遺伝するわけではない
実は、歯並びそのものが遺伝することはありません。しかし、顎の大きさや形、歯の大きさや本数、顔の骨格といった要素は親から子へと受け継がれることがあります。
例えば、顎が小さく歯が大きいといった要素が遺伝した場合、歯が生えるスペースがなくなって、叢生(ガタガタの歯並び)になりやすい傾向があります。逆に顎が大きく歯が小さいといった場合、歯が生えるスペースが広すぎて、すきっ歯になる可能性があります。
父親・母親どちらに似るのか
前提として、父親・母親どちらかだけではなく、両親や祖父母などから受け継がれた複合的な要素が遺伝します。そのため、どちらか一方の外見的特徴のみが遺伝するといったことはほぼありません。
例えば、父親に似て顎が小さく、母親に似て歯が大きいといった場合、結果的に歯がきれいに並びにくくなることがあります。つまり、両親から受け継ぐ骨格や歯の形のバランスが、歯並びに影響を与えるわけです。したがって、「歯並びが悪いのは自分のせいだ」と決めつけて悩む必要はありません。
遺伝による歯並びの影響が出る確率とは?
歯並びがどの程度遺伝するかを正確に数値化することは難しいとされています。ただし、多くの歯科医師は「骨格や歯の大きさといった形質は遺伝しやすい」と考えています。
一方で、次のような要因によって歯並びが悪くなるケースも多く見られます。
・指しゃぶり
・舌で前歯を押す癖
・口呼吸・頬づえ
・柔らかい食事中心の生活
そのため、遺伝的な確率論で悩むのではなく、生活習慣や癖を改善することに注力したほうが、お子さんの健康的な歯並びにとっては建設的であるといえるでしょう。
遺伝の影響を受けやすい歯並びの種類
前述のとおり、歯並びそのものが親から子どもへ遺伝することはありません。しかし、骨格や歯の大きさ・形が遺伝することで、歯並びに影響が出ることがあります。特に次のような歯並びのタイプは、遺伝の影響を受けやすいといわれています。
受け口(下顎前突)
受け口とは、下顎が大きく前に出ていて、上下の前歯のかみ合わせが逆になった状態の歯並びです。
前歯のかみ合わせが逆になっていることから、しっかりかめずに食事がしにくい、発音への影響が出やすい、といった問題があります。
受け口は顎の骨格に問題があることが多いです。そのため、家族に受け口の人がいる場合は似た症状が現れることがあります。
出っ歯(上顎前突)
出っ歯とは、上顎や上の前歯が前方に突き出した状態の歯並びです。
口が閉じにくい、前歯で食べ物をかみ切りにくいといった特徴があり、見た目の印象にも影響しやすい歯並びのタイプです。
出っ歯は「上顎が大きい」「下顎が小さい」といった骨格的な要因が関係することが多くあります。そのため、家族に同じ特徴を持つ人がいる場合は似た歯並びが現れる可能性があります。
叢生(歯のガタガタ・乱ぐい歯)
叢生とは、歯が並ぶスペースが不足し、歯が重なったりねじれたりしている状態です。
歯が重なっているためブラッシングがしにくく、磨き残しから虫歯や歯周病につながりやすいのが特徴です。
歯の大きさに対して顎が小さいなど、口腔内のアンバランスさが遺伝すると、叢生が起こりやすくなります。
すきっ歯
すきっ歯とは、歯と歯の間に隙間がある歯並びです。
特に前歯に隙間があると、発音に影響が出たり、見た目が気になったりする場合があります。
顎が大きいのに歯が小さい、または歯の本数が少ないといった特徴が遺伝することで、すきっ歯になりやすいといわれています。
歯並びに影響する遺伝以外の要因
歯並びは遺伝の影響を受けることもありますが、実際には生活習慣や癖といった後天的な要因のほうが大きな影響を与えやすいものです。ここでは、歯並びに影響する後天的な要因をご紹介します。
指しゃぶり・舌・口呼吸などの癖
お口まわりの悪い癖は、歯並びに大きく影響する要因です。
指しゃぶりや爪をかむ癖、舌で前歯を押す舌癖は、歯や顎に継続的な力を加えます。長く続くと前歯が前に押し出されて出っ歯や開咬を招くことがあります。また、口呼吸も舌の位置が下がるため筋力が低下し、結果として歯並びに影響する癖です。
姿勢やかみ方が偏っている
日頃の姿勢や食事の際のかみ方も歯並びに影響します。
片側ばかりでかむ癖があると、同じ歯に負担がかかり続けます。さらに、頬づえや猫背といった姿勢の悪さも、特定の歯に力が加わり続けやすく、歯並びを悪化させる可能性があるものです。
柔らかい食生活・顎が未発達
柔らかいものばかり食べる食生活は、歯並びを悪化させる可能性が高いです。
現代の食生活は柔らかい食べ物を口にすることが多く、しっかりかむ機会が減っています。その結果、顎の骨が十分に発達せず、歯がきれいに並ぶスペースが不足してしまうことがあります。
就寝の姿勢や癖
実は、就寝時の姿勢も歯並びを悪化させる可能性があります。
例えば、うつ伏せ寝や横向きで片側ばかりに体重がかかる寝方をしていると、顎や歯列に不均衡な力を与えます。睡眠中は長時間同じ姿勢が続くため、歯並びや骨格に影響しやすいのです。
筋肉の発達不足
口まわりの筋肉や舌の筋力が弱いと、正しい舌の位置や飲み込みの動きができず、歯並びに影響が出る場合があります。特に成長期にしっかり顎の筋肉が成長できないと、将来大きな差となって現れるかもしれません。
歯並びが悪いことによる主なデメリット
歯並びの乱れは、見た目だけでなく健康や日常生活にもさまざまな影響を与えることがあります。代表的なデメリットをご紹介します。
見た目のコンプレックス
歯並びは口元の見た目の印象を大きく左右します。
もし歯並びが悪く、本人がそれを気にしてしまうと、人前で口を開けて笑うことに抵抗を感じたり、自信を持って話せなくなったりすることがあります。こうした心理的なストレスは、対人関係や自己表現に影響する場合もあります。
虫歯・歯周病リスクの増加
歯が重なっていたり隙間が大きすぎたりすると、汚れがたまりやすくなるとともに清掃性が著しく低下します。プラークや歯石がたまりやすい状態になるため、虫歯や歯周病のリスクが高まってしまいます。
発音や咀嚼への影響
歯の位置やかみ合わせは、発音や食べ物をかむ機能にも影響します。特に前歯の隙間や上下のかみ合わせの不調和があると、特定の音が発音しづらくなることがあります。
また、咀嚼がうまくできないと食べ物を細かく砕けず、消化器官に負担がかかりやすくなります。
顎や体のバランスへの影響
かみ合わせが悪いと、顎に偏った力が加わりやすくなります。これが続くと顎関節に負担がかかり、口を開けにくい、顎が鳴るといった顎関節症の症状が出てしまいます。さらに、顎や咀嚼筋の緊張が首や肩に広がり、肩こりや頭痛など全身のバランスに影響を与えることもあるので注意が必要です。
遺伝・後天的に乱れた歯並びを整えるさまざまなメリット
歯並びを整えることは、見た目の印象をよくするだけでなく、健康や生活の質にも幅広いメリットをもたらします。
見た目のコンプレックスが解消される
歯並びが整うことで、口元の見た目が改善され、人前で話したり笑顔を見せたりするときの自信につながります。これまで口元を隠してしまっていた方も、自信を持って笑顔になれることでしょう。
虫歯・歯周病のリスクが減る
歯並びを整えることで歯ブラシやフロスが行き届きやすくなり、汚れをしっかり落としやすくなります。プラークや歯石がなく清潔なお口は、虫歯・歯周病リスクの低い健康的な状態といえます。
かみ合わせが改善し、全身のバランスが整う
かみ合わせが悪いと、顎の関節や咀嚼筋に負担がかかり、肩こりや頭痛などにつながる場合があります。歯並びを整えれば、咬合バランスが改善され、顎や体全体の負担を軽減する効果が期待できます。
発音・咀嚼などの機能が改善する
前歯の隙間やかみ合わせの不調は、発音や食べ物の咀嚼に影響することがあります。歯並びを整えれば、舌と歯がスムーズに触れ合えるようになり、しっかりとした発音で話しやすくなることでしょう。そして食べ物をしっかりかみ砕けるようになるため、消化器官の負担が減って栄養素の吸収もよくなり、日常生活の快適さも向上します。
将来的な歯のトラブル予防になる
歯並びが整っていると清掃性が高まり、虫歯や歯周病の予防につながります。また、かみ合わせが安定することで歯や歯茎への負担が分散され、歯の寿命を守ることにもつながります。
歯科矯正で歯並びを整えることは、将来のお口の健康を維持するための大きなポイントです。
遺伝や後天的な歯並びの乱れを整えるには?
歯並びの乱れは、遺伝だけでなく生活習慣や癖によっても悪化することがあります。歯並びを整えるためには生活習慣や癖の改善はもちろん、矯正歯科治療も検討しましょう。
悪い癖や習慣を改善する
指しゃぶりや爪をかむ癖、舌で歯を押す癖、口呼吸などは歯並びに悪影響を及ぼす要因となります。これらを早めに改善することで、歯並びの乱れを防ぎ、顎や口まわりの成長を正しい方向へ導くことができます。姿勢や食生活も関連するため、日常生活全体を見直すことが大切です。
小児矯正
子どもの成長期は、顎の骨が柔らかく発育段階にあるため、矯正歯科治療で骨格の成長をコントロールすることが可能です。
小児矯正では主に、歯列のアーチを広げたり、顎の成長をサポートしたりすることで、歯が生えるスペースを確保する治療が行われます。
また、小児矯正によって顎の成長がサポートされると、将来の本格的な矯正歯科治療がスムーズになり、抜歯を避けられる場合もあります。
大人の矯正歯科治療
永久歯が生えそろい、顎の骨格が完成した成人であっても、歯科矯正によって歯並びを整えられます。
大人の矯正歯科治療には、ワイヤー矯正やマウスピース矯正などの方法があります。矯正を行うことは、見た目の改善だけでなく、かみ合わせや口腔内の健康維持にもつながります。
また近年は装置の種類が多様化してきています。例えば、マウスピース矯正は透明な素材でできた装置を装着するため、目立たず治療可能です。さらに、全体矯正だけでなく「気になる部分」だけを改善する部分矯正という方法もあります。
「歯並びが気になる…」「もしかしたら遺伝?」と気になっているなら、ぜひ矯正歯科治療を検討してみてください。
まとめ
今回は、歯並びと遺伝の関係とそれ以外の要因について解説しました。
歯並びは直接そのまま遺伝することはありません。しかし、顎や顔の骨格、歯の大きさなどは遺伝することがあります。そのため、受け口や出っ歯、叢生、すきっ歯など、骨格の影響を受けやすい歯並びは遺伝の影響が出ることもあります。
一方で、指しゃぶりや口呼吸、柔らかい食生活、姿勢やかみ方の偏りといった後天的な要因も、歯並びに大きく影響を与えます。
「歯並びは遺伝だから仕方がない」と諦めてしまう必要はありません。生活習慣や癖の改善で、ある程度は予防できます。もし歯並びが悪くなってしまったとしても、矯正歯科治療を行えば、歯並びをきれいに整えることができます。矯正は、見た目だけでなく機能性も向上でき、将来的な歯の健康維持につながるものです。
「歯並びの遺伝で悩んでいる…」「笑顔になるのが怖い…」とお悩みの方は、ぜひ矯正歯科治療を検討してみてください。